今度、映画協会というものができて、僕もその理事の一人になった。官民合同の企てである。高圧的な統制を避け、日本映画を指導して、健全にして上品なものを作ると同時に、外国映画に対して、保護奨励しようというのである。今までのように、受けるものなら何でもいいというのでは、少し情けない。我々が加入している以上、お役所風の統制を緩和して、芸術的によいものが産まれるよう尽力したいと思っている。
これが文芸を目標とするものなら、いろいろ文句が出てうるさいだろうが、映画業者は、欣んで参加しているようだから、日本映画の向上に、役立つに違いないと思う。
川端君が「読売」で、日本文学は貧弱で、日本語という障害があるために、外人に読まれないのは幸いだという風に書いてあるが、しかしそれは川端君の自嘲趣味である。僕はときどき英国やフランスの短篇小説傑作集を読んで、つまらないのに驚いている。現在の日本文学を十九世紀末葉の欧州の文豪たちに比べれば貧弱だろう。同年輩の作家と比べれば、謙遜する必要は少しもない。
「大毎」で、千葉亀雄賞というのを制定するそうである。大衆文学の作品中優秀なものに与えられるとのことであるが、大衆文学のゴッド・ファーザーである千葉さんを記念するのにふさわしいと思う。
春秋社発行、鷲尾雨工という人の「南北朝太平記」第二巻というのを先日読んで感心した。なかなかがっちりした力作で、楠正儀を中心にし、当時の珍しい史実を使っての歴史小説である。この人は、本名浩といって、直木三十五の旧友である。従って、作品にも直木の影響がある。もっとも直木ほど描写に精彩がないが、しかし構想は直木よりも、しっかりしている。
直木の影響を受けているといったが、僕の想像では、直木は青年時代この人の歴史趣味の影響を受けて、後年歴史小説を書き、この人はまた直木の歴史小説の影響を受けて、遅ればせながら歴史小説を書き始めたという感じである。とにかく、相当うまいし、史実にしっかり足を付けている点で、異色ある作品であると思う。南北朝末期の乱世のありさまがかなり面白く書けている。
(十一年一月)
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