話の屑籠・昭和十一年

スペインの動乱を見るにつけても、挙国一致ということが、いかに必要であるかということが分かる。聖徳太子が和を以て貴しとするといわれたことが、国家繁盛のために、大切であることが分かる。維新前後の水戸などを考えても、国内の分裂ほど恐ろしいものはない。しかし挙国一致の道は、中庸を持して、極端に走らないことだ。無理な国策などを立てて、挙国一致を強いようとするところにこそ、かえって国内分裂の危機が潜んでいるのだと思う。万機公論に決するという明治維新の大精神をいつまでも生かしておきたいと思う。そのためには、言論の自由ということは、絶対に尊重せらるベきで、言論を圧迫して、正しき公論などあり得ないのである。


自分は、日本人の死に方として、満州で匪賊に殺されることはいちばん嫌だと思っていた。が、成都などで、殺されるのは悪くない。華々しい国際的殺され方である。ことに、渡辺特派員が、無数の暴徒を相手に、最後まで奮闘して屈しなかったのは、武士の斬死にも似て、悲壮を極めていると思う。国家が骨を拾ってくれるのであるから、死んでも本望であろう。


横光君が、帰って来た。横光君は、日本にいても生活を楽しむといったところのない人間だから、外国の享楽生活になどはいり切れないからすぐ退屈してしまうのであろう。しかし、本誌への通信は好評だったし、「日日」へのオリンピック通信は、短いが異色があったから行っただけのことはあったと思う。


文芸会館建設資金醵出の方法として、アトリエ社から「現代日本文学全集」を出すことは、前に書いた通りである。その次に「文藝春秋」で、近く、臨時増刊として、現代作家の創作集を出すつもりである。利益は全部資金へ出すつもりだから、これも、ぜひ買っていただきたい。その次に「日活」に頼んで、芥川賞の「コシャマイン記」を映画化してもらうことになっている。「日活」は、その利益を全部くれるというが、全部は気の毒で貰えないにしても、半分くらいは貰えると思う。この三つがうまく行けば五、六万くらいは集まるから、他の計画と相俟って、十万円以上の金は集まりそうである。外国人がたくさん来るオリンピックまでに、文芸会館を作っておくことは、国家の体裁からいってもよいことだと思う。

(十一年十月)


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