先月、生方敏郎氏が記念展覧会をやるから、色紙を書いてくれというので、三、四枚書いて送ったところが、それが新宿の三越で展覧された。それを見たある年配の人から、「貴下の字はあまり拙いから、あんな字は公衆の前に出さぬ方がいい。もし、強いて色紙などを頼まれたら、能筆の秘書に貴下の言葉を書かせて、署名だけすることにしたらどうか」という忠告を受けた。それは、悪意でなく、親切からいってくれたものであった。自分の悪筆は、自分でよく知っているが、しかし、書を頼まれたとき、悪筆にこだわって断るのもいやなので、自分は悪びれずに書くことにしている。字を稽古する気はあるのだが、根がないのである。武者小路氏の字は、僕と同じくらいの悪筆であったが、近来とてもよい字を書くようになっているので、自分も稽古すればと思うが、思うだけである。
坂東簑助君に、姉妹の子供あり、二人とも戦地に慰問の手紙を出した。ところが、妹には返事が来たが、姉には来ないので、姉さんの方が淋しがっているということを、簑助君が「オール讀物」に書いた。すると、戦地の将兵諸氏から、姉さんに対する逆の慰問文が、殺到した。
芥川賞、直木賞、菊池賞を選考授賞する日本文学振興会の法人設立許可が認可された。これで、文藝春秋の存亡にかかわらず、授賞が永久に続けられることになった。本社は、すでに三万円を資金として寄付したが、数年の間に十万円くらいの資金を寄付するつもりだ。こうした仕事ができるのも、一に読者各位の支持の賜物である。
本社の各雑誌の愛読者で出征しておられる方に、慰問袋を送りたいと思っているので、一々の姓名を知るために、何かの方法を講ずるつもりである。
(十三年八月)
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