アメリカのハル国務長官の談話を読むと、世界の強国を全体主義国家と民主的国家との二つに分け、日本を前者に入れてあるが、おかしいと思う。どんな国家でも、難局に際したときは、全体主義的になるのは当然である。英国が最近徴兵制を敷くかも知れぬなどいわれているのは、英国の前途が多難になったためであろう。インドやオーストラリアなどが独立したら、きっと英国にもヒットラーのような人物が出るだろうと思う。ドイツなどでも、中欧に覇を唱えることができ、物資が豊かになれば、民主的になり個人を尊重するようになるだろう。国家に余裕ができれば、個人に権利を認めるようになるのは当然である。ことに、日本は昔から戦争の時は、いつでも全体主義になるので、今に始まったことでない。それが日本のいいところだと思う。日清戦争の時なども、言論は今以上に統制されていたようである。日本は、今さらドイツなどの真似をして、全体主義的になっているのではないと思う。有事の場合には、常に「憶兆心ヲ一ニシ」たのだと思う。
文芸会館も、時局がら建築不能なので、赤坂の山王付近に、格好な住宅を買って、仮会館に充てることにした。とにかく、僕がいい出したことなので、ひとまず責任を果すことができたので、大変うれしかった。が、会館ができても、利用されなければ死物に等しいので、関係者が最大限度に利用してほしいと思う。
日活の「土」を見たが、なかなかいい映画であった。今までの日本映画に見るような、チャチなところが、ほとんどなかった。原作よりずっと明るくなっているし、二時間以上かかるが、少しも退屈しなかった。
この頃の日本の映画が、リアリズムの域に達したことは、日本映画として、進歩である。しかし、あらゆる芸術は、まずリアリズムの洗礼を受けてから発達するもので、リアリズムに到達したということは、それ自身は、たいしたことではない。
(十四年五月)
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