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乖離するモデル

古瀬幸広の「off side 2001」 第25号
2001年9月28日

前回、アメリカにおけるテロ事件に関連し、「超インサイダー取引を許さない仕組みが必要だ」と書いた。報道されているように、すでに各国で関係者の資産凍結が進んでおり、対策は進んでいるようだ。テロによってテロリストが儲けることができるなら、連鎖がいくらでも続くことになる。こうでないといけない。

それだけでなく、アメリカでは、テロの直後から、「株を売るな」というメールがインターネットで流されたという。

経済合理性と意志

ビルが崩壊し、多数の犠牲者が出たばかりではない。そのことによって株価が急落すれば、自由主義経済に対してのテロが成立することになる。だから「愛国心があるなら、株を売るな」というメッセージが流された。

これが果たしてどのような効果をもたらしたのか。これまでの推移をみるかぎり、株価はマーケットアナリストによる「最悪の予想」を裏切る形で推移しているといっていいだろう。つまり、実際に株を売らない人も、それどころか買う人もいた、ということだ。

このことが何を意味するのだろうか。ちょっと気が早いかもしれないが、私はインターネットコミュニティの出現によって、市場を支える「人々」が変わり始めたとみていいのではないかと思うのである。

歴史にifをもちだすのは無粋だが、もしもインターネットがなかったとすれば(正確に書くと、もしもインターネットによって構成された人々のコミュニティがなかったとすれば)、株価はもっと激しく落ちていただろう。このことが、今後、どういう影響を与えていくのかはわからない。ただすくなくとも、経済学者は意識をしていく必要があるだろう。「人間の観察」が経済学の根幹のはずだが、気がつくと物理学的なモデルの美しさにひっぱられ、現実とモデルとが乖離していく傾向が見られた。インターネットの登場により、ますます人間観察が必要になった、ということを今回の事例は示していると思う。

コミュニティ経営

ちょっと関連して紹介したいのが、『日経ビジネス』に掲載された日立製作所のレイオフに関する話だ。赤字を計上し、経営陣が17,000人の解雇計画を発表したことに関して、
「従業員が全員給料を2割カットすれば、日立は過去最高益を計上できる」
という指摘がされていたのである。

まったく考えもしなかった。驚くべき話だと思う。クビを切らなくても、全員が「給料2割カット」を飲めば、最高益を出してしまうのだ。それだけ日立製作所の固定費が高いということだが、逆に、なぜ経営陣が給料カットを選ばず、レイオフを選ぶのかがわからなくなってしまった。

この話、じつは不況の日本全体で考えなければいけない問題ではないか、という気がする。レイオフを繰り返して失業率を増やす選択をするのか、全員が給料カットに甘んじつつ、景気回復をめざすのか、という選択である(後者はワークシェアリングの考え方と実質的には同じことである)

まだ私たちの頭には、過去の成功体験が色濃く残っており、こんな話をしても実感がわいてこないのだが、そろそろ真剣に考えてみないといけない時期にさしかかっていると思う。マーケットが意志をもちはじめたのだから、企業コミュニティはもっと意志をもっていいだろう。労使対立という構図ではなく、労使コミュニケーションという構図をもたないといけないのだと思う。

余談

テロ事件があってもなくても、不安定な経済状況を反映して、さまざまなメディアに経済専門家、アナリストが登場し、コメントを出している。

こういうコメントをみるたびに思うのは、「星取表を出してほしい」ということだ。その専門家のコメントが信頼できるものなのかどうかを判断する基準があまりにも少ない。「朝日新聞に掲載されたコメントだから」という理由で信頼する人はいないだろう。その専門家が、過去にどのような予想をし、結果がどうだったか、という情報がほしいと思う。たとえばいまなら、湾岸戦争のときにどんなことを言った人なのか、ということを知りたい。どこかやらないだろうか。

(off side 2001, No.25. 了)


[奥付]

古瀬幸広の「off side 2001」第25号
2001年9月28日発行(毎週金曜日発行)
著者  古瀬幸広 <http://www.kk.iij4u.or.jp/~furuse/profile.html>
発行人 廣瀬克哉 <hirose@honya.co.jp>

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