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いつまでも慣れないものがある。お弁当の中に入っている緑のプラスチックだ。上をギザギザにしてあり、食べ物同士を区切っている。見るたびに、味気ないな、と思ってしまうのだ。
もちろん、このプラスチックはフェイクである。しかしいまや、これがなにかのフェイクであるということすら、忘れ去られてしまっている。このことも、味気なさを増幅している。この「仕切り」は、プラスチックなどという便利なものがない時代から日本人が使っていたものだ。もとは、ハランという植物の葉をこのような形に切って使っていたのである。
「ハラン」と聞いて、即座にお寿司屋を思い浮かべるなら、現代日本人として植物の知識が豊富なほうかもしれない。あの、刺身や寿司を乗せる大きな葉がハラン(葉蘭。ただしラン科ではなく、ユリ科の植物)である。地方によってはバラン、ヒトツバなどともいう。これを皿がわりに寿司屋が使うのは、風情があるだけでなく、殺菌・防腐作用があると言われているからである。
つくづく、昔の人の智恵を感じる。ハランは、日当たりの悪いところでもよく育ち、庭の隅にも緑を与えてくれる植物でもある。いつも青々としていて、よく育つ。これを庭に植えておけば、お弁当づくりにも使えてしまうというわけだ。これに飾り包丁を入れて使ったのである。
パスツール以来の近代科学は、細菌を発見し、腐敗(発酵)する仕組みを解明し、衛生という概念を確立した。が、そのはるか前から、我々の祖先は植物がもつ力を利用して、細菌のコントロールをしていたのである。寿司を笹の葉や柿の葉で包むのも同じだ。柿の葉にはタンニンが含まれ、やはり防腐作用がある。
フェイクのプラスチックには、風情がないだけでなく、防腐作用もない。色と形が似ているだけである。じつは味気がないのではなく、効果がないのであった。そして結局、防腐剤がふりかけられていたりするのである。
単なる飾りではないといえば、お赤飯などに添えられている「葉」もそうである。プラスチックのその飾りは、南天の葉を模したものだ。
南天の葉には嘔吐を招く作用があるという(正確には、大量だと嘔吐を招き、少量だと嘔吐を止めるという)。お赤飯をおすそわけする際に南天の葉を添えたのは、「万一食あたりしたり、まずかったりしたら、これで吐き出してください」という意味をこめてのことだったらしい。南天の葉は、その上、殺菌作用ももっている。
プラスチックのフェイクは、そうした作用とは無縁である。ならばこんなもの、ないほうがマシだと私は思う。形だけ真似をするむなしさを感じるだけである。
三菱自動車のハブ破損事故に捜査の手が及んでいる。<関係者が「ハブ破損は社内で秘匿情報になっていた。ほかに脱落があったのは知っていたが国に報告しなかった」と認めていることが18日、神奈川県警の調べで分かった。>(共同通信報道)という。製造物責任という言葉を知っているのか? という状態である。
ちょっと気になるのは、マスコミ報道がなんとなく手ぬるいことだ。なんの罪もない主婦が生命を落しているというのに、「企業倫理が問われる」などという書き方をしている。倫理の問題ではなく、責任の問題だろう。これは。
(off side 2004, No.13 了)
古瀬幸広の「off side 2004」第13号(通巻154号)
2004年3月26日発行
著者 古瀬幸広 <http://www.kk.iij4u.or.jp/~furuse/profile.html>
発行人 廣瀬克哉 <hirose@honya.co.jp>
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