「契爺」とは広東語でゴッドファーザーの意。香港お嬢たちから親しみを込めて契爺と呼ばれるAsiatic Exproler 山森洋一さんが、アジアの各地で遭遇した旅の場面 を伝えるフォトエッセイ「契爺茶館」。アジアのさまざまな風景を毎月お届けします。
2000 年 9 月
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エルデニ・ゾーの修行僧 1999年7月14日午後6時
モンゴル帝国第2代皇帝オゴタイ・ハーンが1235年に建設したカラコルムは、東西交渉を象徴する殷賑をきわめた国際都市だった。壮大、華麗な宮殿が偉容を誇っていたと伝えられるが、第5代皇帝フビライ・ハーンが大都(現在の北京)に遷都してからは急速に衰えた。後にこの地に大仏教寺院エルデニ・ゾー建立されたとき、これらの建築物は取り壊されて資材として再利用されたため、カラコルムの町の位置も長らく不明であったという。19世紀半ば、エルデニ・ゾーの外壁北側でオゴタイの宮殿跡が発掘され、ようやく確定したのだそうだ。その西方約1キロのところが現在のカラコルムで、いまは草原に取り残された田舎町といった風情だ。
大仏教寺院エルデニ・ゾーは郊外の草原にひっそりと広がっていた。建物全体は正方形の外壁のそれぞれに四つの門と、全体に配置された108の仏塔により構成されている。東門から入ると中央にモンゴル人がソプラガと呼ぶ白い仏塔がある。チベットの形式を受け継いだインド仏教伝来の仏舎利塔(ストゥーバ)で、釈尊の遺骨が納められ、仏法や宇宙の象徴として礼拝の対象となっている。この塔の左奥には漢民族様式ゴルバン・ゾー(三寺)が並ぶ。三寺の外側には日々の勤行をする大講堂があり、漢民族の建築ではあるが、ゲルの様式もわずかにみえ、モンゴル文化の複合的な性格の一面を象徴するかのようだ。
さて、名所案内はそのくらいにして、摩訶不思議な自然の驚異をお目にかけよう。寺院を訪れたのは午後4時ごろ。ふと見上げるとにわかに巨大な雲海が紺碧の空に張り出しはじめた。何10`も離れているであろう彼方に雨が降っているさまと、その雨が高温で水蒸気と化して地上から雲の中央部に猛烈な勢いで吸いあげられているのがはっきり見えるのである。小学生の理科で小さなフラスコの実験でしか知らなかった、あの対流現象が大自然の舞台でまるごと見えるのだ。感動のあまりしばし立ち尽くしたのだった。
この寺院へは仏教に帰依している僧たちが毎日修行に通うという。すでに夕方で僧たちは帰っていた。境内の事務所を覗いてみると、たまたま若い僧が当番で残っていた。なかなか立派な顔つきでえんじ色の僧服もキマっていたので、撮影をお願いしてみた。ところがこれが難物だった。禁じられているとか、一度も経験がないとか、いろいろ理由を述べ立てていっかな応じようとしないのだ。ガイドもついにあきらめてしまった。だが、その間の様子をみていると規則で拒絶している風ではないようである。さいわい、お詣りにきていたモンゴル人の一人が英語を話したので、彼を通じて説得にかかった。30分後、ようやく若い僧はおずおずと腰をあげてくれた。外で待っていると、なんと彼はすっかり着替えて現れたのである。なんのことはない、単に恥ずかしがっていたのだ。草原に佇むこの若い修行僧の写真は彼の手元にもあるはずである。
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寺院上空の自然現象 1999年7月14日午後4時半ごろ
(c)2000 Yoichi Yamamori