3 台頭するゴールドカラー

◆ホワイトカラーからゴールドカラーヘ

企業にとっての付加価値の源泉が、物的生産から知的生産へと移行するにつれ、マネジメントの主要な対象となるサラリーマンも、ブルーカラー→ホワイトカラー→ゴールドカラーと移りつつある。情報社会化の進行している先進資本主義国においては、天然資源に代わって知的労働者の頭脳の力(ブレーンバワー)が、企業や国にとって最も価値のある資産になりつつあるのである。

この傾向の最も進んでいるアメリカにおいて、最近前述のゴールドカラーという言葉が脚光を浴びている。この言葉は、世界的に有名なシンクタンクであるSRI(スタンフォード・リサーチ・インスティチュート)インターナショナルの経営コンサルティング部の、上級経営コンサルタントであるロバート・E・キリーが、ホワイトカラーの中でもとりわけ次のような五つの特性をもつ知識労働者に対して命名したものである。

(1)職務の知的特性

通常、知識労働者は、型にはまらず、単純な繰り返しではない複雑な仕事に従事している。企業の中で知的生産のウエートが増すにつれ、このような仕事が増大する。高度な判断を伴う戦略スタッフ、卓越した感性の求められるマーケティング企画、先端技術革新の成果を素早く取り込むことの要請される研究開発(R&D)などがその代表である。その他、弁護士、会計士、システムエンジニア、コンピュータ技術者、クリエーターなどの職種に従事する人々もゴールドカラーといわれる。このような仕事の成果は、ゴールドカラーの人々の知性と創造性に依存しており、効率一点張りの定量的尺度では、その結果を測ることはできないという特性をもっている。

(2)教育水準の高さ

ゴールドカラーと呼ばれる人々は、もちろん大多数が大卒であり、大学院卒も多い。アメリカでは、企業のトップになるための登龍門として位置づけられているビジネス・スクール(大学院の経営学修士〈MBA〉のコース)に、全米平均で約二八%もの女性が学んでいる。その意味では、わが国よりも学歴や資格がモノをいう国であり、高等教育を受けた労働者はより多くの就労のチャンスに恵まれ、また彼らの受けた専門教育は、ゴールドカラー間の互換性を少なくし、職種の特権的地位を高めている。

(3)経済的豊かさ

ゴールドカラーの年収は、四万五〇〇〇ドルから六万五〇〇〇ドルであり、彼らの採用とオリエンテーションには六カ月から九カ月が必要とされる。要するに、彼らはリプレース(代替)することが極めて困難で、高くつく知識労働者なのであり、そのことが彼らをゴールドカラーと呼ぶ直接のキッカケになっている。彼らは、一般に給与以外のベネフィット(例えば高級アパートの提供、金融資産への投資による副収入など)をもっており、ゴールドカラーを配偶者にもつ人も多い。

このようなケースが増えているために、アメリカでは最近「ダブル・ネゴシエーション」が注目されている。これは、旦那を別な場所(都市)のいいポストに引き抜きたい場合には、奥さんにも同じ都市の中で新たな良いポストを紹介し、同時に引き抜くヘッド・ハンティングのことである。このような傾向が強まっているために、企業は経済的強制力で彼らを拘束し、統制することが難しくなってきている。

(4)独立性の高い価値観

どこの国でも、企業の生活と個人の生活との間には大きなギャップがある。ゴールドカラーといわれる人々は、このようなギャップに直面した時、日本における会社人間のように素直に会社に帰属したりはしない。個人の独自性を重んじる彼らは、むしろ企業組織の変更を求めるほうに積極的である。企業における例ではないが、ゴールドカラーの独立性の高い価値観が既存の伝統的な慣行を崩した面白い例がある。それは、専攻を同じくする優秀な二人の学者夫婦が、自分の時間も、研究時間も、本を書く時間もそれぞれ欲しいという共通のニーズから、二人込みにして月給一人分でよいから雇ってくれということで、ある大学の一つの教授ポストをジョブ・シェアリングし、一学期ずつ交替で教えているというケースである。もちろん、これは冗談ではなく、アメリカで実際に行われている話である。

(5)企業家精神

アメリカでは、近年多くの会社が生まれている。一九五〇年には九万三〇〇〇の新会社が設立されたに過ぎなかったが、七三年にはその数は三〇万にのぼり、八三年には何と六〇万以上の新会社が誕生した。このような企業の創業ブームの中でゴールドカラーと呼ばれる人々は、自らを成長の速い、意欲的な企業家精神に富む企業で働こうとする強い動機づけを受けている。

◆ゴールドカラーをどうマネジメントするか

以上に見た状況は、程度の差こそあれ基本的にはわが国でも共通である。知的生産が企業にとって最大の付加価値を生むこれからの時代には、彼らゴールドカラーをいかに効果的に働かせることできるかどうかが企業間競争の決め手となる。第II章で述べたホロニック・マネジメントの導入も、ブルーカラーを対象とする伝統的な経営管理を超えた新しい時代のマネジメントとして求められているのである。ここでは、ゴールドカラーを味方に引きつけるためにキリーが重視している四つの課題について、私なりの解釈を加えて紹介しておこう。読者は、彼の基本的な問題意識が、ホロニック・マネジメントの基本原理と似通っていることに気づかれると思う。

(1)ビジョンと戦略の設定

ゴールドカラーと呼ばれる知的レベルの高い誇り高き人種は、命令によって動かされることを嫌うという性癖をもっている。要するに、伝統的で権力主義的なトップダウン型のマネジメントを是としないのである。したがって、トップは十分に検討された計面と将来に対する明確なビジョンを示すことによって、彼らを首尾よく味方に引きつけねばならない。しかし、その具体化についてはゴールドカラーの人々に自律的な解釈の余地を与える程度にあいまいであるほうが望ましい。多様な解釈の許容と同時に人々の一体感を促進するからである。野中郁次郎氏(一橋大学教授)のいう“戦略的あいまい性”は組織内に多様な視点と創造性をはぐくみ、ゴールドカラーのやる気を引き出すのである。

(2)組織の専門性の統合

企業において知的生産のウェートが増大するにつれ、知識と技術により専門性が要求されるようになる。同時に、それを一つの企画や商品・サービスに仕立てていくためには、専門化した諸機能を一つの目的に向けて統合していくことが求められる。現状では、マトリックス組織や、立石電機の車座方式(営業マンが得意先から試作品の注文を受けると、開発や製造、品質保証などの担当者がすぐに集まって対処方針の八割程度を固め、ユーザーに対してクイック・レスポンスするやり方)などが参考になろう。

(3)ゴールドカラーの価値を生かす

ゴールドカラーの頭脳の力をいかにうまく引き出し、事業に結びつけていけるかどうかが、これからの企業の勝負を左右する。そのために、マネジメントは次の二つの分野で集中的な努力を必要としている。

一つは、ゴールドカラーの知的生産性向上である。残念ながら、企業におけるこれまでのOA(オフィス・オートメーション)への取り組みは、ホワイトカラーの事務革新を中心とするもので、ゴールドカラーの知的生産を高めるための取り組みは、今後に残された課題である。後で述べる、ソフトテクノロジーとしての考える技術の習得、パソコンなどを用いたデシジョン・サポート・システムの整備、各種データベースなど外部情報へのアクセスの容易化など、個人の能力をより高めるための方策から、オフィス環境(照明、デザイン、レイアウト等)、目標とする戦略ドメインなどの事業構造、タスクや管理システム、組織行動、組織風土などの組織特性等、様々な要因によってゴールドカラーの生産性が規定されているからである。しかし、この領域への投資が企業にとって新たな利潤を生むジーン・プールであることは間違いない。

昨今、わが国の企業では、知的領域に属する分野にまでTQC運動を展開している例を多く見受けるが、価値創造という企業の目的そのものに従事するゴールドカラーの人々に対して、物的生産性向上と従業員の一体化をめざす手段(=TQC)を押しつけると、優秀な人はさっさと企業を逃げ出すであろうし、残った人はいずれ疲弊してあたら有能な資源を枯渇させることになりかねない。ゴールドカラーに対してTQCの効用があるとすれば、自分たちは企業にとって欠くことのできない人間なのだから大事にされて当然だという、ゴールドカラーが抱きがちな驕りの気持ちをぶち壊すために、せいぜい一カ月ぐらいの短期間に時限的に実施することであろう。

今一つは、ゴールドカラーの定着率の向上対策である。ある調査によれば、アメリカではプロフェッショナルと管理者の六一%しか現在の職場に満足していないということが報告されている。また、別な調査では、大学院卒の管理者の平均在職期間はわずか三一カ月といわれている。このように、ゴールドカラーと呼ばれる人々の会社への帰属心はだんだん低くなってきているのである。この傾向は今後わが国でも当然強まってくる。ゴールドカラーの特性のところで指摘したように、彼らは金銭による報酬によっては動機づけられないやっかいな人種である。やはり基本は、彼らが自主的に、面白くてやりがいのある仕事に取り組めるような条件を整理し、他のゴールドカラーの人々と仕事を通して知的刺激を受けあうよう、側面的にマネジメントが援助を行うことが重要であろう。にもかかわらず、飛び出して仕事をしたがるゴールドカラーの中で、スーパージェネラリストとかプロデューサー的人物、あるいは、企業が新たなイノベーションを進めていく上で欠かせない人物は、社内ベンチャーをやらせるか、またはグループの中で社外ベンチャーとして独立させるなどの対応を図り、決してグループ外に逃がしてはならない。このようなゴールドカラーを何人グループ内に抱えておけるかが、これからの企業の勝負のポイントであり、何よりも、これまで彼らに費やした莫大な投資が自らの競合ライバルを生み出すためのものであったなどという悲惨な状況だけは避けねばならない。

この点に関して参考になるのは、西尾忠久氏の率いる広告会社アド・エンジニアーズのやり方である。同社では、是非とも会社にとどめておきたい有能なクリエーターが会社を辞めたいといってきた場合、“国内留学三カ年を命ず”という辞令を渡し、退社を認めるという。その際、三年以内なら辞めた時点の給与の八割でいつでも復帰を認めるということを伝える。こうして辞めた人の中で、復帰してきた人は、おおむね、その後急速に成長し、同期で会社にとどまった人たちよりはるかに秀れた業績を示しているとのことである。

(4)信額を確立する

ゴールドカラーが優位を占める企業では、マネジメントと彼らの間に緊密な信頼関係が確立できなければ、長期的に安定した知的生産を行うことが困難になる。信頼関係を確立していく上で必要な第一の側面は、大多数のゴールドカラーの人々が知的レベルの面で尊敬しうるリーダーがトップの中に存在し、知的生産に関わる領域ではラインのトップ・マネジメントの拘束を離れてリーダーシップを発揮しうる条件整備が求められる。ゴールドカラーの人々を強く結びつける紐帯となるのは、何よりも“透明な知性”だからである。

今一つの側面は、組織の価値と経営慣行が、ゴールドカラーの価値観と両立しなければならないということである。批判的知性に富んだゴールドカラーの人々の中には、高い志をもった人が少なくない。企業が単に利潤拡大のみを目指し、短期的志向で走る場合には、彼らの潜在的なパワーの発現は期待できないであろう。彼らは自らの志を実現する場として企業をとらえているのであり、企業は自らの戦略ドメインの設定において自社に所属するゴールドカラーの人々の意識を包括的に反映できるよう努力することが求められよう。

どうやら、キリーのゴールドカラーに関する論述の紹介に名を借りて、私のいいたいことをしゃべってしまったようである。要するに本格的な知的生産の幕開けが既に始まった情報社会においては、企業の命運はいかに的確にゴールドカラーの人々をマネジメントしていくかがポイントになるのである。その点で、問題を先取りしたキリーのゴールドカラー論は、わが国の企業人にとって極めて示唆に富むものであるといえよう。


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